オキナワチドリの種子繁殖

 オキナワチドリは多年草ですが、前項で書いたように一定の年月で「寿命」が来る可能性があります。
 仮に30年の「寿命」があるとしても、自分が手に入れた時が29年目で、来年には弱って枯れてしまうか
もしれません。元気なうちに種子を採り、次の世代を育てておいたほうが安心です。


 とは言っても、ランの種子繁殖は簡単ではありません。ランの種子はホコリのように細かく、生長に必要な
栄養分をほとんど持っていません。自然界ではキノコやカビの菌糸から養分を吸い取って生長するのです
が、どんなキノコでもランの種子を生長させてくれるわけではありません。土の中には種子を腐らせてしまう
キノコやカビもいます。
 たまたまランの種子と相性の良い特定のキノコの菌糸が土の中に棲んでいて、なおかつその場所の温
度・日照・水分が種子の発芽に合っていた場合に限り、種子が生長することができます。

 キノコを発生しやすくした用土(たとえば腐りかけた木、刻んだダンボールなどを土にまぜ、有用菌がいそ
うな場所の土を加えたもの)に種子を蒔くなどの工夫をすると、オキナワチドリ種子の発芽・生育に成功する
ことがあります。しかし変なキノコが生えるだけで種子は発芽してくれない場合も多いし、晩春になるまで発
芽せず、新球根ができる前に夏が来て枯れてしまう場合もあります。現在のところオキナワチドリの種子を
確実に発芽・生長させるための条件はよくわかっていません。

(参考サイト>「ダンボール実生法」

        「羽蝶蘭の種播き」

 しかし、いわゆるバイオ技術を使うと、キノコがいなくても種子を発芽させることができます。
キノコ菌なしで培養する方法を 「無菌培養」といいます。
 無菌培養では、種子の生長に必要な栄養分を水に溶かし、その溶液に寒天を混ぜてゼリー状に固めた
ものに種子を蒔きます。(*) 種子は寒天培地に含まれた栄養分を吸収して大きくなります。
(*寒天培地に雑菌がつくと腐ってしまうので、滅菌消毒などの特別な作業が必要です。)

(参考サイト> 中央学院高等学校 「ラン科植物の無菌培養」)

 苗がある程度の大きさまで生長すれば、自力で養分を作って生きていけるようになります。その後は普通
の栽培用土に移し、親株と同じように育てることができます。

 この方法でオキナワチドリの種子は比較的容易に発芽し、安定して苗を得ることができます。

>参考:筆者の使用培地



 温室栽培では自然結実しにくいので、確実に種子を得たい場合は人工交配します。
自家受粉でも結実しますが、他の株と交配したほうが丈夫な苗が得られることが多いようです。

 
 交配には、先端を削って細くした爪楊枝を使用します。 (>>人工交配の方法

    
  左:人工交配後7日目の果実
中央:   交配後28日目
 右:    交配後70日の成熟果実と種子

  
左:種子の拡大写真
右:黒ゴマの粒と比較。 これでもランの種子としては大きいほう。

  
左:育ちはじめた種子は白い小さな塊(プロトコームという)になり、全体から毛のような細い根が出てくる。
右:やがてプロトコームから葉が出てくる。

    
中:無菌培養ビンの中で育つ実生(みしょう=種子から育てた苗)
右:培養ビンの中で開花。

  
左:培養ビンの中でできた新球根(ビンの底から見たところ)
右:鉢植えにして初めての開花。小さな苗でも小さいなりに花を咲かせてしまうことが多い。
  花色を確認する目的がなければ、ツボミを摘み取って球根を太らせたほうがよい。


フラスコから出して3年目。








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