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  オキナワチドリの育て方 (1)  


2003年2月 関東地方の栽培家の温室

 温度:

 沖縄本島産のオキナワチドリは気温が25℃以下になる時期に発芽しはじめ、15℃前後で旺盛に生長し
ます。産地が北方寄りの屋久島産個体は芽出し温度が多少低いようで、沖縄産より発芽がやや遅く、開花
の時期も1ヶ月ほど遅れます。

 沖縄では常時15℃以上ですが、日中15〜20℃、夜間5〜10℃程度あれば問題なく育てられます。
短時間であれば0℃近くの低温にも耐えますが、霜に当てると枯れてしまうので、本土では室内に入れる
必要があります。窓ぎわなどの場合、日中に日が当たって暖かくても、明け方に激しく冷え込む場合がある
ので注意してください。

 本土では、暖房のまったく無い場所で育てるとさすがに生育が悪くなるようで、作落ち(何かの原因で株
が弱って小さくなってしまうこと)があった場合は回復が難しくなります。

 夏の休眠時は、過湿で蒸れた状態にならなければ35℃前後になっても耐えられるようです。25℃以下
で湿った状態にすると夏のうちに発芽してきてしまうので、寒冷地で夏越しさせる場合、やや乾燥気味に管
理したほうが良いかもしれません。


 日照:

 オキナワチドリは明るい場所を好みます。外気温が10℃以上の時期であれば屋外に置いて、ある程度の
日光に当てたほうが丈夫に育ちます。

 しかし、気温が低くない時期に強い日光に当てると、温度が上がりすぎて生育障害をおこす場合がありま
す。夜間に温度が下がっていれば、日中30℃以上になっても枯れることはありませんが、常時20℃以上
だと葉が黄色くなり、大きくならずに枯れてしまいます。沖縄で栽培する場合、芽出し頃には直射日光を避
けて明るい日陰で管理したほうが安全です。本土でも温室内で管理している場合は注意が必要です。

 なお、ガラス越しの日光だけだと葉の色や質が悪くなり、生育後期に病気でもないのに葉が黄色くなって
枯れはじめる現象がしばしば見られます。
ですから本土でも、日中は外に出して自然の空気と光にあてている方は少なくありません。

・・中には、夕方に屋内にとりこむのを忘れて全滅させた方もおられますが・・。(合掌)


 室内栽培の場合、窓ガラス越しの日光だけで育てるより、植物育成用蛍光灯を併用したほうが温度や日
照を調整しやすいようです。室内育成ではどうしても光量不足になりやすいですが、育成灯を併用すれば徒
長させないで育てることができるようになります。
蛍光灯の数を多くして直上から照射すれば、まったく直射光の当たらない室内でも育成が可能です。

 オキナワチドリは日照時間で開花生理に影響が出ることはありませんので、一日12時間前後の点灯照
射をしても問題ありません。冬に曇天が続く沖縄や本土日本海側では、育成灯は使い方しだいで大きな効
果があります。
 

 用土:
 
 硬質鹿沼土、焼赤玉土、軽石などの小粒(3〜5mm粒)を混合したものが「山野草用土」「ウチョウラン用
土」などの名前で市販されていますので、それを購入して使うと手軽です。基本的にはウチョウランと同じ用
土が使えます。野生ラン栽培の経験のある方は、ご自分の使い慣れた用土を使うのが良いでしょう。

 ただし、オキナワチドリはウチョウランより水分を好みます。そのため硬質鹿沼土のような乾燥しやすい用
土のみ使うことは避け、ミズゴケなど保水性の強い用土を混用する場合が多いようです。
ちなみに筆者はウチョウラン用混合土50%、ミズゴケ50%ぐらいで半々に混ぜています。


 肥料の効果: 

 オキナワチドリの栽培では肥料の効果が大きく現れます。十分な肥料を与えた株は葉が一回りも二回り
も大きくなり、新球根の大きさも違ってきます。

 しかし、たっぷり肥料を与えても無肥料でも、咲く花の数はそれほど変わりません。
ウチョウランの場合であれば、小苗だと数花、肥培した株は数十花と、栄養状態によって着花数が激しく増
減します。ところがオキナワチドリの場合、貧弱で今にも枯れそうな小苗でも2〜3輪は着花するのに、栄養
の良い大株でも5花ぐらいしか咲かない場合があります。本種の場合、違いが出るのは花の大きさで、栄
養状態が良くなると花が小苗の時の倍ぐらいの大きさになることがしばしばあります。
(注:これは選別品の大輪花の場合で、小輪花はいくら肥培しても花は小さいです。)

 
 上の2つの写真は同一個体です。
左は入手した直後の花。右は2年間作りこんでから咲いた花です。

 業者が販売している苗は肥料など満足に与えられていませんから、たとえ大輪系統でも小さく縮んでしま
っている場合が多いです。手抜き栽培で「咲いた」個体を見ても、その個体の実力を判断するのは困難で
す。気合を入れて3年ぐらい作りこんで「咲かせた」花を見ないと、その個体の真価はわかりません。

 このことを知らなかった頃、大輪円弁花と言われて購入した個体が貧弱な細い花だったのでラベル間違い
の並花だと思い、草友に進呈してしまいました。すると翌年、大きくなった株が友人宅で見事な大輪花を咲
かせました。もう大ショック。(笑)


 肥料の与え方:

 一般の山野草栽培では、緩効性(ゆっくり溶けながら効く)固形肥料を用土に混ぜて使用します。しかし、
本種の場合は根が少なく、土中に入れた肥料に触れて根が傷むと回復不能のダメージを受けることがあり
ます。用土内に固形肥料を入れるのはおすすめしません。

 固形肥料を鉢土の表面に置く方法であれば使用できないことはなく、筆者は有機肥料を置き肥として使
用しています。しかし葉が肥料に触れると傷んで溶けてしまうため、ロゼット状に葉が広がるオキナワチドリ
の場合には置き肥は扱いづらいです。

 一般には液体肥料をラン類に適した濃度(一般植物の3分の1〜5分の1ぐらい)に薄めて使用します。
あまり濃い肥料を与えると生理障害で葉に褐色斑が出るので、薄い肥料を回数多く与えたほうが安全で
す。

 葉を育てる効果のある、窒素分の多い肥料を芽出し頃から使用していると、葉色が濃くなり、植物体も大
きくなります。ですが新球根ができてくる頃に窒素肥料が効きすぎると、葉ばかり育って新球根が大きくな
らない場合があります。生育中期以降は、球根を肥大させるカリ系成分が主体の肥料に切り替えたほうが
良いようです。

 なお、草友が非常に良い結果が得られているという肥料や活力剤は、筆者が使うと葉色が悪くなって、球
根も太りません。逆に筆者が良いと思っている肥料は、草友には害があって使いにくいそうです。
肥料を与える回数、用土や水加減などが違う場合には、正反対の結果になることがあるようです。

・・・ということは、筆者が推奨する肥料の与え方も、あなたが試した場合、筆者とまったく違った結果になる
かもしれません。
新しい肥料を試す時は、今までと同じ管理の鉢と比較実験してください。

 デリケートな植物では、新しい栽培法にすると環境変化についてこられず、かえって弱ってしまうことも珍
しくありません。お粥ばかり食べていた人にいきなりステーキを食べさせれば、元気になるかもしれません
が、お腹を壊して寝込んでしまうかもしれません。
いずれにしても、急激な変化は避けたほうが良いでしょう。

.( >> その2に続く )






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